社交不安障害
社交不安障害とは
●上司の前で、プロジェクトのプレゼンをする
●職場にかかってきた電話に出る
●会議で意見を言う
●銀行員の前で書類に記入する
●友人の披露宴でスピーチをする
日常生活において、緊張する場面がいくつかあります。ある程度の緊張や不安は自然なことです。思春期は自意識が芽生える時期で、自分が周囲からどのようにみられているかが気になります。この時期にみられる軽度の社交不安は、情緒の正常な発達過程としてとらえられ、多くの場合不安は徐々に少なくっていきます。
しかし、職場や学校などで、人から注目を浴びることや人前で発言することへの不安、またこれらのことを不安に感じていることを笑われるのではないかという恐怖から、日常生活に何らかの支障をきたしている場合、「社交不安障害(社会恐怖)」と診断されます。過度な症状の方の中には、統合失調症など別の疾病の症状の一部として現れることもあります。
発症時期は10代と若く、生涯有病率は約10~16%と頻度の高い疾患です。そして、学生時代など若い時期は苦手な場面を避けながらなんとか乗り切ったとしても、就職し取引先や上司など人との関わりが避けられない状況が増えてきた頃に限界を感じて、病院を受診する人も少なくありません。
社交不安障害の症状
社交不安障害の症状には以下のようなものがあります。
人前で話すのが緊張する。
特に、初対面の人、上司など目上の人、大勢の人の前で発言をする時に緊張します。そのため、学校や職場に行けなくなることもあります。
人前で字を書くときに手が震える。
銀行の窓口、結婚式の記帳など、人が見ているところで緊張して手が震えます。
人と一緒に食事をするのが苦手。
自分の食べ方が相手に不快感を与えるのではないかと感じ、会食が苦痛に感じます。
人前でお腹が鳴る、おならが出るのではと不安になる。
特に会議など静まり返った状況で、お腹が鳴ったり、おならが出たりしたらどうしようと不安になり、会議などへの参加が苦痛になります。
人の視線が気になる。
レストランや電車の中で、人の視線が気になり、噂をされているのではないかと感じ、その場所を避けるようになります。
人がいると排尿できない。
特に、後ろで人が待っている時など、早くしなければと緊張してしまいます。
電話に出られない。
職場など人がいるところで、電話に出る時に緊張する。自分の電話対応が、周囲の人や相手に変に思われるのではないかと不安になります。
社交不安障害の中心にあるのは、人に笑われる、馬鹿にされるなど「否定的な評価を受けることへの恐怖」です。そして、そのような評価を受ける可能性のある状況を避けようとします(回避行動)。
「○○をすると失敗して、笑われるのではないか。馬鹿にされるのではないか。」
「そうなると、明日から会社に行けなくなる。取引が失敗して会社をクビになるかもしれない。」
このように、悪い評価を受ける可能性が極めて高いと感じ、それによる「最悪の結果」を予想し恐怖感を抱きます。
そして、苦手とするできごとの前から、抑うつ気分、不眠、不安、食欲不振などの症状が現れることがあります。
また、赤面や発汗、体の震えなど、人から分かりやすい症状が出ることを恐れるとともに、このことが知られると「このくらいのことで緊張している」などさらに悪い評価を受けるのではないかということを恐れます。
そして、このような恐怖や不安を感じるような状況を避けようとします。例えば、会合に参加しない、会議で発言しない、外食しないなどがあります。また、公共の場所では、うつむく、マスクをする、サングラスをかけるなど人の視線を避けようとしたり、ヘッドホンで音楽を聴くなどして緊張感を和らげようとします。
不安や緊張感が慢性的に続くことで、本来の能力を発揮できず自信を失い、抑うつ的になる、ある特定の場所に近寄れなくなる、また緊張感を緩和させるために飲酒するようになります。その結果、他の精神疾患を合併しやすくなります。
社交不安障害の原因
社交不安障害の原因として、生物学的(体内の物質的)要因、環境的要因、遺伝的要因が関係しているといわれています。
生物学的要因
多くの研究から、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の不足が関与していることが分かっています。これは、セロトニンを増加させる薬物(SSRIなど)による治療が有効であることの根拠にもなっています。
環境的要因
「人前で恥ずかしい思いをした」という経験から、再びそのような状況に陥るのではないかという不安を感じるようになり、それを避けるようになることがあります。
さらに、本来、人の評価を気にする、人見知りをする、完璧主義の傾向のある人も、人前で恥をかきたくないという意識が強く、対人緊張感が強くなることがあります。
また、他の精神疾患と同様に、社交不安障害においても親の行動パターンから受ける影響は大きいといわれています。親が不安、恐怖を感じるものから避けようとする行動パターンを受け継いでいることがあります。
遺伝的要因
双生児研究と呼ばれる双生児を対象とした研究で、二卵性に比べ遺伝子の一致率が高い一卵性双生児において、社交不安障害を同時発症する割合が高いことから、何らかの遺伝的な要因も関係していると言われています。
社交不安障害の治療
不安を感じることは正常な心理反応であり、何が起こっても不安を感じることなく過ごすことは不可能です。また、くつろいだ状態よりもある程度の不安を感じていた方が、作業能率が高くなるという報告もあります。
社交不安障害の治療の目標は、不安などの症状を完全になくすことではなく、日常生活で支障を来たさない程度まで症状を和らげることです。
薬物療法と心理療法の2つの治療法があり、両者を併用した治療が一般的です。もちろん、相談の上で薬物療法は行わないで治療を進めることも可能です。